第40回【総額1,000億円超の議論―熊本市役所の「建て替え問題」を考える】

 

「はじめての不動産売買に、明るく朗らかな未来を」 株式会社明朗の千場智樹(せんば ともき)です。

今、熊本市で非常に大きな注目を集めているテーマがあります。それが、熊本市役所の「建て替え問題」です。

 

2016年と2026年の熊本地震を経験した熊本市民にとって、市役所の建物が安全であるかどうかは、災害時の安心に直結する極めて重要な問題です。

しかし、新しく建て替える場合には「1,000億円以上の費用がかかる」という試算が発表され、「それほど巨額の公金を使ってよいのか」という疑問や不安の声も上がっています。

 

現在、大西市長は個人の考えだけで方針を決めず、「6つの選択肢」を提示して専門家とともに慎重な検証を進めています。

一見すると複雑に見えるこの問題ですが、6つの案を順番に整理していくと、それぞれの利点と課題、そして現実的な方向性が見えてきます。

 

①〜④:補修や現庁舎の利用

 

まずは、現在の建物をそのまま活かしたり、一部のみを整備したりする①から④の選択肢です。

 

① 現庁舎を耐震改修する

② 減築して杭を耐震化し、不足する部屋は別に確保する

③ 災害対策本部のみを別の場所に整備する

④ 耐震化はせず、現庁舎を使い続ける

 

根本的な解決にならない案(③・④)

 

③と④は一見すると、直近の大きな支出を抑えられるように感じられるかもしれません。

しかし、大地震が発生した際に④の案では庁舎自体が被災し、復旧・支援の陣頭指揮を執る機能が停止してしまう危険性があります。

 

また、③のように「災害対策本部のみ」を頑丈な別棟へ移したとしても、日常の業務を行う本庁舎が危険なままでは、市民や職員の安全を守ることはできません。

これらは問題を将来へ先送りしている側面が強く、防災拠点としての根本的な解決にはなりません。

改修・補修の費用対効果(①・②)

 

「それなら、今の建物をしっかり補修して使い続ければよいのでは」という考え方もあります。

しかし、既存の建物は老朽化が進んでいるため、十分な耐震性を確保するための工事だけでも数百億円規模の費用が必要となります。

ここで重要になるのが、国からの財政支援(補助金など)の仕組みです。

 

新しく建て替える場合、国の特別な制度を活用することで工事費の多くが後から交付税として補填されるため、熊本市が最終的に負担する「実質負担額」は500億円程度に抑えられる試算となっています。

一方で、古い建物を改修しながら使い続ける場合はこうした国の支援制度が利用しにくく、「補修にかかる費用」と「新築した場合の市の実質負担額」があまり変わらないという課題が生じます。

よって、同じような費用負担になるのであれば、将来にわたって長く安全に使える新庁舎を整備する方が合理的なのではないか、という見解につながります。

⑤・⑥:新庁舎の整備(新築案)

 

消去法で検証を進めると、現実的な選択肢は「今、新しく建て替える」次の2つの案に絞られてきます。

 

⑤ 本庁舎と、中央区役所の「2棟に分離して」整備する

⑥ すべての機能を「1棟に集約して」整備する

 

どちらの案も最新の免震構造などを備えた安全な建物となりますが、ここで熊本市にとって大変重要な「景観」の視点が関わってきます。

 

熊本城の景観と建物の高さ

 

すべての行政機能を1つの建物にまとめる⑥の案では、必要な床面積を確保するために建物がかなりの「高層ビル」になります。

その結果、サクラマチ周辺などの街中から熊本城を見上げた際に、巨大な庁舎が城の美しい眺望を遮ってしまう懸念が出ているのです。

その点、⑤の「2棟に分ける案」であれば、それぞれの建物の高さを低く抑えることができます。

市民の誇りである熊本城の景観を守りつつ、高い防災機能を確保できるため、この「2棟分け案(⑤)」が最も調和のとれた現実的な選択肢として浮かび上がってきます。

 

最大の課題は「丁寧な合意形成」

 

論理的には⑤の「2棟に分けて新築する」という方向性が最もバランスの良い解決策に見えますが、実現に向けた最大の壁は「市民からのご理解と納得」です。

ニュースなどで「事業費 総額1,100億〜1,230億円」という大きな数字だけが強調されると、「税金の無駄遣いではないか」という懸念が生じるのは当然のことです。

国の支援によって市の実質負担が500億円程度に軽減されるとはいえ、それも市民の大切な税金であることに変わりはありません。

物価高などが続く厳しい社会情勢の中で、熊本市がどれだけ丁寧に、

「なぜ改修よりも新築の方が安全面・費用面で望ましいのか」

「なぜ2棟に分ける必要があるのか」

「この投資によって市民の生命と暮らしがどう守られるのか」

を分かりやすく説明し、市民の共感を得られるかが今後の最大の焦点となります。

 

おわりに

 

市役所本庁舎は、単なる事務スペースではなく、万が一の災害時に市民の命と復旧を支える「防災の要」となります。

だからこそ、事業費の金額だけに捉われるのではなく、将来の安全性や街のあり方を含めて、私たち市民が関心を持って見守っていく必要があります。

熊本の明るく朗らかな未来に向けて、一人一人が納得のいく選択をしていくことが大切になるのではないでしょうか。

 

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